パイレックス グラスウェアの歴史
そのパイレックスを生んだのは、1851年創業(当時の社名はBay State Glass Co.)のCorning Glass Worksです。
工場の場所や社名の変遷を経た後、1875年、Corning Glass Works社が設立されます。
当時は主に鉄道の信号機用ガラス、温度計管や調剤用のガラスなどを造っていましたが、1879年にはトーマス・エジソンのために最初の白熱電球のガラスを造ったことでも知られています。
PYREXブランドは1915年にOVENWAREで登場します。
熱膨張や熱収縮に強く、急激かつ極端な温度変化にも耐えうる画期的なガラスは、ケミカルウェアとして1917年から理化学業界でも重宝されますが、そのルーツは鉄道用の耐熱ガラスで培われたノウハウによるものでした。
家庭では、1936年誕生のFLAMEWAREを含め多くのキッチンアイテムを展開し、熱に強く耐久性のあるクリアガラスでPYREXブランドを浸透させます。
ミルクガラスでも1937年にMacbeth-Evansを買収したCorning Glass Worksですが、買収後は(Macbeth-Evansとは真逆の)厚く頑丈な食器を買収した工場で造り、第二次世界大戦中、軍に提供していました。
第二次世界大戦後、新たな繁栄の波が始まっていたアメリカではベビーブームが起きましたが、1947年、そうした家庭に向けた新世代の製品として明るい色のキッチンウェアに本格的に取り組み始めます。
1940年代末期からは、white (“Opal”) glassと呼ばれたミルクガラスにカラーを吹付けたColored glasswareを、さらにはprintingでデザインを加えたPatternを次々に登場させていきます。
ミルクガラスの大量生産に入ると、第二次大戦中から製品の耐久性に定評のあったCorning Glass Worksには、レストランやホテルなどからもカスタマイズしたディナーウェア製作の依頼が入りました。
Corning社自体もオリジナルの業務用ディナーウェア(レストランウェア)を製作し、レストランチェーンや軍の食堂などに提供しますが、レストランウェアの中にはCorning社の消費者製品部門によって個人向けに販売されたものもあります。
刻印も時代とともに変遷していきますが、刻印の種類はファイヤーキングのようにパターン化されておらず、記載内容も製品によって微妙な違いがあります。
PYREXの記載がない、CORNINGだけの刻印を使った製品もあります。
刻印で製造年代を推測することはできませんが、1960年代には従来の円周形のほかに横羅列タイプの刻印も造られていきます。
さらに、ミルクガラスの後期(1970年代中期-1986年)には次の2つの特徴があります。
・刻印のMADE IN U.S.A.の表示がCORNING NY USAに変わった
・容積をクォートなどのヤードポンド法ではなく、リットルなどのメートル法で表示することもあった
従って、いずれかが裏面に見られる場合は、製造年代が比較的新しいことは判ります。
一方、日本でのファイヤーキングのような高い人気をアメリカで持つパイレックスには多くのコレクターがおり、製造年が調べられているパターンも多く、アメリカのwebサイトで明らかになっています。
PYREXブランドから代表的なグラスウェアを抜粋し、ご紹介します。
■エングレイブド・オーバルプラッター(Engraved Oval Platter) 1921年-1950年
(OVENWARE 1915年-より抜粋)
キッチン・テーブルウェアのアメリカン・アンティークの各人気企業はミルクガラスという魅力の柱を持っていますが、Corning社はミルクガラスに加えて、頑丈な耐熱ガラスという独自の技術力を持って、古くは1910年代からクリアガラスで製品化していました。
従って、アンティーク・パイレックスを語る時、クリアガラスを外すことはできません。
パイレックスの長い歴史は、1915年に導入されたクリアガラスのOVENWAREから始まります。キャセロール、ローフパン、パイプレート、カスタードカップなど12のアイテムでスタートしました。
単調になりがちなクリアガラスへのデザインとして、Engraved(彫が入った)オーブンウェアを1918年から導入します。Engravedのほか、Decorated(模様入り)もされましたが、当初は幾何学模様より花柄模様が多かったようです。
オーバルプラッターは1921年に生産を開始します。オーバルプラッターはアメリカの家庭で人気を博し、肉汁などを落とすEngravedタイプのプラッターは1950年まで生産されました。
また、Engravedオーバルプラッターには、クロム製の受けプレートやメタルフレーム台も造られましたが、プラッターをフレームで底上げし、卓上鍋のように食べ物を蝋燭で温められるセット品も販売されました。
■スキレット(Skillet) 1945年-1979年
(FLAMEWARE 1936年-1979年より抜粋)
Corning Glass Worksの技術者たちは、新たな製品開発に常に挑戦していました。
その努力の賜物が1936年に生まれたFLAMEWAREです。ストーブやコンロに直にかけられるガラス製品ですが、初期のFLAMEWAREは、クリアガラスのOVENWAREと区分けするため、青みがかった色で造られました。
直火にかけられるこの画期的なグラスウェアは、実用性も含め高い人気を得て1979年まで造られました。そして現在も、アンティーク・パイレックスとしてアメリカで非常に高い人気があります。
スキレットは1945年のカタログで登場します。いわゆるプライパンや深さのある鍋タイプなどがありましたが、サイズ(直径)は7インチのみでした。
オシャレな女性から高い人気を得たガラス製のスキレットは、1940年代末期には2ハンドルタイプの8インチスキレット、1952年にはハンドルタブが2つある7インチスキレットと、ラインナップを増やしていきました。
■カラード・ミルクガラス(Colored Opal Glass) 1945年-1986年
大手ガラスメーカーCorning Glass Worksは、ミルクガラスでも美しいカラーと優れたデザインのパターンを生み出しました。
1945年にはマルチカラーのボウルを造りますが、ミルクガラスに合うカラーの開発を進め、1940年代末期からリフリジレイター、1950年代にはベイクウェアやディナーウェアで、カラーの美しさを前面に出していきます。
1950年代後半は、decal(転写)やprintingでデザインが施されたミルクガラスが業界の主流になりましたが、1956年、パイレックスとしては最初のパターンであるSnowflakeとPink Daisyを登場させます。
パイレックスはミルクガラスでもリフリジレイターやボウル、キャセロールなどのキッチンウェアで人気を博しますが、1958年にはハンドルをpour spout(注ぎ口)にしたシンデレラボウルを発表します。このアイデア商品は、2つのハンドルの一方を小さくして注ぎ口の機能を持たせたもので、注ぎ口形のハンドルはその後キャセロールなどにも展開されます。
1960年代にもTerraなど独特な作品でパイレックス人気を不動にしていきますが、頑丈さを強みにして、キッチンウェアに加えて業務用ディナーウェアも広く展開したことがパイレックスの特徴です。
しかし、1970年代に入ると一般家庭に向けたテーブルウェアのデザイン数も増やします。
グリーンのSpring Blossom、ブラウンのButterfly Gold、そしてブルーのOld Townなど、多くの女性から支持を得たパターンを次々に生んでいきます。
ミルクガラスの代表的なパターンからいくつか抜粋します。
●ソリッドボーダー・ディナーウェア(Solid Border Dinnerware) 1953年-1962年
Corning社はミルクガラスに映えるカラーリングで製品化を始めますが、ディナーウェアではこのSolid Borderシリーズを最初に手掛けました。
●タウン&カントリー(Town and Country) 1963年-1967年
Town and Countryは、デザインとカラーの異なる組合せで6種も造られた、1960年代の代表パターンの1つです。
●テラ(Terra) 1964年-1965年
Corning社のグラスウェアの強みである頑丈さをミルクガラスでもアピールするために、土のようなたくましさでデザインして1964年から1年間だけ造られたLimited Patternです。
短い製造期間のため、ミルクガラスの生産終了後、コレクターに年々人気が高まっているのがTerraです。
●スノーフレーク(Snowflake)redesign版 1972年-1975年
(初期デザインのSnowflakeの製造年代は1956年-1967年)
カラーデザインでミルクガラスを手掛けてきたCorning社も、1956年にはSnowflakeとPink Daisyという2つのパターンを発表します。
Snowflakeはカラーの組み合わせでWhite on Charcoal(1960年生産終了)、Turquoise on White(1963年生産終了)、White on Turquoise(1967年生産終了)の3種造られました。
初期Snowflakeは雪片だけが描かれましたが、1972年、雪片で花輪(garland)をデザインした写真のredesign版でSnowflakeを復活させます。
1970年代はCorning社がSpring BlossomやButterfly Goldなど、一般家庭向けのデザインでマグなどを大量生産した年代ですが、Snowflakeも1972年からのredesigh版ではマグなどのTable Top Wareを製品ラインに加えます。
従って、Snowflakeのマグは初期デザインでは造られず、日本でSnowflakeとして売られているキッチンウェアはredesigh版か、初期版の中でも長い期間造られたWhite on Turquoise(ブルーのベースカラーに白い雪片)がほとんどです。
●スプリングブロッサム(Spring Blossom) 1972年-1981年 (1979年にredesigned)
可愛い小花のデザインと鮮やかなグリーンカラーで、パイレックス・ミルクガラスの中でも最も有名なパターンです。
●バタフライゴールド(Butterfly Gold) 1972年-1981年 (1979年にredesigned)
発売開始とデザイン変更、さらには生産終了が同じSpring BlossomとButterfly Goldは、1970年代のパイレックス・ミルクガラスの両翼を担っていました。
バタフライゴールドは、(ゴールドを模した)ブラウンカラーの蝶々がパイレックスらしい幾何学的なデザインで描かれています。
●オールドタウン(Old Town) 1972年-1983年
グリーンのSpring Blossom、ブラウンのButterfly Goldと並んで、ブルーパターンとして長い期間人気を継続していたのがOld Townです。
●オールドオーチャード(Old Orchard) 1973年-1977年
Corning社のカラー技術を見事に具現化した絵柄とベースカラーで知られるパターンです。
クリアガラスのカバーが多いキャセロールの中でも、Old Orchardではカバーもミルクガラスで造られました。
●ウッドランド(Woodland) 1978年-1983年
70年代末期にデザイン・製造されたパターンです。
マグはミルクホワイトにブラウンのデザインが描かれていますが、Woodlandはチョコレートブラウンとキャラメルカラーの2種のベースカラーを“売り”にしたキッチンウェアを展開し、一般家庭に浸透していきました。●オータムハーベスト(Autumn Harvest) 1979年-1986年
ファイヤーキングで人気を博したWheat(小麦)がデザインされ、パイレックス・ミルクガラスの生産終了年である1986年まで製造されたパターンです。
上品な落ち着きが(結果的にミルクガラス最終期となった)デザインにマッチしています。
Corning社得意のカラーリングでバリエーションを増やしたこともパイレックス製品の特徴ですが、Antumn Harvestもラスト(rust)とオレンジの2種のベースカラーにアイボリーカラーのデザインが施されています。
PYREXブランドは、理化学の分野で証明された耐久性をもって、直火にもかけられるアンティーク感溢れるクリアガラスのキッチンアイテムから、美しいミルクガラスたちによって築かれました。
しかし、ライバルのファイヤーキングと同じ1986年、ミルクガラスの生産は終了します。
(参考文献)
・Barbara E. Mauzy. PYREX The Unauthorized Collector’s Guide. Schiffer Publishing Ltd., 2008, 175p
・”Welcome to Pyrex Passion!”. PYREX Passion. http://www.pyrexpassion.com/index.html, (参照2018-9-24)
・”Dating Pyrex Kitchenware”. PYREX COLLECTOR. http://www.pyrexcollector.com/dating.php, (参照2018-9-24)
・”The History of Pyrex”. Pyrex Love. http://www.pyrexlove.com/history-of-collectibles-pyrex, (参照2018-9-24)
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